昨年度までに、ショウジョウバエのsalivary glandにおけるカスパーゼの活性化は、salivary glandのanterior側に存在する数細胞から始まり、カスパーゼ活性がposterior側に伝播することを明らかにした。さらに、単離したsalivary glandを器官培養しエクダイソンにて細胞死を誘導する系を用いて、カスパーゼ活性化パターンをFRETを用いたカスパーゼ指示薬SCAT3を用いて解析し、in vitroでは活性化が開始される細胞はまったくランダムであることを明らかにしている。これは、in vivoで観察されたパターンは単なる細胞間の感受性の違いではなく、in vivo特異的なエクダイソンの情報処理機構が存在することを強く示唆するものである。 今年度はこのカスパーゼ活性化パターンを時空間的に制御する遺伝子明らかにするために、遺伝学的手法とSCAT3を用いたライブイメージングにより同定することを試み、現在までに数種類の変異体に関してその役割を明らかにした。そのうちβFTZ-F1遺伝子変異体において、カスパーゼ活性化が完全に抑制するだけでなく活性化パターンがランダムになっていることを見出した。また、本変異体のsalivary glandをin vitroにてエクダイソン刺激をしたところ、細胞死は抑制されず、wild typeと同様にランダムなカスパーゼ活性化パターンが認められた。よって、本変異体では、salivary glandの細胞死実行因子ではなく、細胞死を誘導するエクダイソン放出に関与すると考えられた。また、本遺伝子変異体ではエクダイソンが関与する足の伸展や頭部形態形成が抑制されていた。以上のことから、本遺伝子は、エクダイソン放出における量・あるいは空間的入力様式を制御することで、カスパーゼの活性化パターンを制御していることが示唆された。
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