本年度は前年度に引き続き、欧州租税法を中心に研究を行った。年度前半は、わが国の租税法とドイツ租税法の損失をめぐる取り扱いの比較研究をもとに、独文で250ページ強の単著をまとめることができ(2006年春に出版予定)、欧州とわが国の租税法ならびに課税政策の相違点を明確化することに努めた。同時に、わが国の租税法研究の一端を西洋言語で公表することで、欧米(含む南米)やアジア各国の日本語を必ずしも解さない租税法研究者への日本法の啓蒙に努めた。 この日独比較研究の副産物として、欧州各国内においても、現行租税関連法規の運用・解釈上をめぐっては、細かい論点で見解の対立があることがわかった。よってさらに理解を深めるべく、本年度ウィーン経済大学で行われた若手研究者を支援する国際プロジェクトにドイツ側の協力者として参加し、ドイツ法をベースにオーストリア、オランダ、イギリス法を主とする欧州の資本市場に対する課税のあり方を勉強した。この取り組みは、欧州連合の加盟国がEU法の基本理念である「加盟国の居住者(法人を含む)に対する非差別原則」ならびに「加盟国内の資本移動の自由」といった原則をどのように伝統的な国内租税法と調和させていくか、その結果、国境を越えた欧州内の企業再編がどのように進んでいるか(ないし依然として妨げられているか)を明らかにしようとするものであった。この共同研究では、その1)まだわが国では比較的研究の進んでいない英独仏以外の欧州の中小規模の国(オーストリア、オランダ、ルクセンブルク、スイス等)の税制が、実は欧州全体の課税政策に非常なインパクトを与えていること、その2)欧州各国の租税法教育(実務および学問的な双方のトレーニングの仕方)の一端を知りえて、非常に興味深いものであった。尚、共同研究の成果は、近くウィーンにて英文で出版・公表される予定である。
|