私の研究目的は、現代医療において自己決定権と法が果たす役割を明らかにすることである。特に自己決定権の限界と呼ぶべき問題に焦点を当てている。現代医療の複雑化や、生命技術革新により新たな問題状況が生じており、「自己決定権」のみを議論して回答にたどり着けない状況にある。たとえば、ES細胞研究や人工生殖のような新しい問題状況においても必ず「自己決定権」という医療倫理における伝統的キーワードが議論に登場する。本概念が初めに登場したインフォームド・コンセントの議論状況の検討に加えて、他の価値との調整がなされる新しい医療倫理問題の議論状況の分析から、ひるがえって、医療をめぐる多様な問題状況に対応できる自己決定権の再定義を試みることが研究の目的である。 本年度は、「自己決定権」概念の再構成という目標の前提となる知識・情報の収集に集中した。専攻である英米法、特に米国を研究対象の中心としつつ、国内の議論も検討対象とした。その一環として、2年前に翻訳した「アメリカ医師会倫理綱領」の内容とそこから得られる示唆につき、平成16年7月17日のシンポジウム『医療倫理規定の現代的意義:日米の比較を軸として』(東京大学山上会館大会議室にて)にて発表した。平成16年11月に出版された『ケーススタディ生命倫理と法』ではケース11「小児脳死移植」を担当した。平成17年2月23日にオーストラリアのメルボルン大学にて開催された「生命倫理と法」シンポジウムに参加し、日本における生殖補助医療をとりまく法的状況につき報告した。また、2年前に聴き取り調査を行った、ビクトリア州不妊治療局(1995年の不妊治療法に基づく行政機関)を再訪し、不妊治療法の改正をめぐる議論などにつき聴き取り調査を行った。また、上記テーマにつき日本・米国・オーストラリアの関連文献を収集・分析した。
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