研究概要 |
第一に、ジョンソン政権下で「貧困との戦い」事業が考案された背景を、コミュニティ活動事業(Community Action Program, CAP)を中心に分析してきた。具体的には、1960年代前半に、民主党政権によりなぜ「豊かな社会」のただ中に存在する「貧困問題」が「再発見」されたのか、どのような政治的意図のもとでコミュニティ活動事業が考案されたのか(特に公民権運動、60年代後半の都市「暴動」、ヴェトナム戦争の影響等に注目した)を、ジョンソン大統領図書館(LBJ Library)やアメリカ国立文書館(National Archives)等の史料をもとに検討してきた。第二に、こうした政策考案者の側の言説に対して、ロサンゼルスの黒人・ラティーノ居住区の活動家がいかなる運動・言説を創り上げたのかを詳しく研究してきた。特に、連邦、郡、市政府の側が貧困問題のみを取り扱おうとしたことに対して、貧困問題と人種・ジェンダーをめぐる問題がいかに密接に関係しているかを有色人・女性の活動家が鋭く指摘し、政府中心で進められた「貧困との戦い」に挑戦していった過程を、ジョンソン大統領図書館、国立文書館に加え、ロサンゼルスの公立文書館、大学に所蔵される多数の文書史料、新聞、インタビュー調査等をもとに分析した(『アメリカ史研究』、『年報地域文化研究』、Japanese Journal of American Studiesに論文を投稿した)。近年では、これまで行ってきた「貧困との戦い」の研究を、アメリカ「例外主義」批判、「比較福祉国家論」といったより広範な文脈の中に位置づけ、再検討を行っている。1960年代から70年代前半の日米の福祉政策、特に人種・エスニシティ及びジェンダーをめぐる問題に注目して、ロサンゼルスと東京の比較研究を行うことに関心がある。
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