研究概要 |
1.前回の実験で,親水性ポリマーを土壌に散布すると蒸発速度や土壌中の不飽和透水係数の低下が起こり,それらの効果はポリマーの種類によって異なることをあきらかにした。これは親水性ポリマーの浸透深さや土壌中の分布に違いがあるためと考察し,遺構保存用の親水性ポリマーが土壌中の水分移動に与える影響をあきらかにするために,親水性ポリマー散布後の土壌水の水ポテンシャルを測定し,ポリマーの土壌への浸透過程をあきらかにすることを目的とした実験をおこなった。実験に使用した試料土には立川ローム,試料ポリマーにはポリシロキサン-ポリオキシアルキレンオリゴマー(分子量700、以下SAO)と、ポリエチレングリコール(分子量400、以下PEG)を選んだ。水ポテンシャルの測定にはデカゴン社のDewpoint PotentiaMeter WP4を使用した。無散布試料の水ポテンシャル分布は,10日目まで一定であった。10日目以降から各深さの水ポテンシャルは大きく低下した。SAO散布試料では,深さ0.25cmの1日目の水ポテンシャルが大きく低下し,時間の経過とともに水ポテンシャルは低下し続けた。また深さ0.75cm以下では,時間経過による大きな低下は見られなかった。PEG散布試料は,深さ0.25cmの水ポテンシャルは3試料中もっとも低下し,時間の経過とともに水ポテンシャルは低下し続けた。またPEG散布試料はSAO散布試料とは異なり,深さ0.75cmの水ポテンシャルが時間の経過とともに低下した。この結果から,PEGは時間の経過とともに土壌中に浸透していくが,SAOは表層に残留することがわかった。またPEGの方がSAOよりも表層の水ポテンシャルを低下させるにもかかわらず,蒸発速度はSAO散布試料の方が小さくなった。これらの理由として,土壌の初期水分量やポリマーの物性値の違いなどがポリマーの浸透深さに影響を与え,その浸透深さの差が蒸発速度を左右していると考えられる。 2.1の研究結果を「遺跡保存用の親水性ポリマー浸透土壌中の水ポテンシャル分布」という題目で,2004年5月15・16日に京都府の立命館大学で開催された,日本文化財科学会第21回大会でポスター発表を行った。 3.2004年9月9〜12日の期間,北海道にある露出展示してある遺跡の調査を実施。写真撮影や聞き取り調査,資料収集等を行ってきた。 4.平成15年度の研究内容を雑誌名「考古学と自然科学」(ISSN 0288-5964)に投稿し,原稿が2004年12月10日に受理され51号に掲載される。
|