本研究では、地球型惑星の表層環境の進化に大きな影響を与えたと考えられる、衝突蒸気雲内の最終的な化学組成を推定するために必要な、衝突蒸気雲内の化学反応の反応速度を実験的に求めることを目標として研究を行っている。 本年度は、新たな反応速度測定手法の提案をするとともに、それに従った実際の測定手法を確立することを主眼とした。本年度の実験では、手法の適用例としてAnhydrite(硬石膏、CaSO4)の粉末圧縮ペレット試料に高出力パルスYAGレーザーを照射し、高温高圧の蒸気雲を発生させた。この模擬衝突蒸気雲のカルシウム原子の輝線を超高速度分光器を用い測定し、その発光スペクトルから蒸気雲の温度を決定した。また、カルシウムイオンの発光輝線のシュタルク広がりを測定し、それから蒸気雲の圧力を決定した。今回は、温度は約6500ケルビン、圧力は約30000気圧という値が得られた。一方、この蒸気雲の最終的な化学組成を四重極質量分析計を用い測定した。今回は、蒸気雲のサイズに対する二酸化硫黄/三酸化硫黄比の経験的なスケーリング則を求めた。その結果、蒸気雲サイズを大きくするとともに、蒸気雲内の反応のクエンチ温度が低下し、それに伴いクエンチ後の組成中に低温で安定な三酸化硫黄の量が増えることが観測された。次に、発光分光測定の結果とガス分析の結果を合わせることにより、各実験条件におけるクエンチ点での三酸化硫黄の生成速度を推定した。推定された三酸化硫黄の生成速度は、既存の実験データから推測される気相反応の速度と比べ100から3000倍大きいという結果となった。これは、実験データが既知の反応経路以外にも、蒸気雲内では三酸化硫黄の生成経路が存在していることを示唆している。(727字)
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