宇宙の大規模構造、すなわちダークマターの大規模構造は100万度から1億度のガス、WHIMにより最も良くトレースされると言われている。しかし、その温度のガスに対して感度の高い検出器は少なく、特に1000万度から1億度のガスはまだいくつかの方向に発見されたにすぎない。WHIMの特性を調べ大規模構造への寄与を議論するには、重力ンシャルの強い場所、すなわち銀河団近傍を観測するのが有効である。本研究ではおとめ座銀河団、かみのけ座銀河団背後のクェーサーをそれぞれ観測した。おとめ座銀河団背後のスペクトル中には銀河団に付随する電離した酸素の吸収線が発見され、その方向のWHIMの密度、奥行きに制限をつけることに成功した。これは銀河団に付随するWHIMの初めての観測である。かみのけ座銀河団背後のクェーサーのスペクトルからは銀河団周辺のWHIMに起因すると考えられる酸素、ネオンの吸収線が発見された。さらに得られた結果をこれまでの観測結果と比較することで、その観測の予想よりガスの奥行きが小さいこと、空間分布のばらつきが大きいことが示された。これらの結果は大規模構造生成過程、WHIMの加熱機構に示唆を与える。 本研究では、WHIMの観測だけではなくより高い感度を持つ分光器の開発も行った。WHIMの観測のために最も有力視されている検出器はTES型マイクロカロリメータという超伝導を利用した高波長分解能分光器である。しかし、十分な撮像能力は世界のどこでも未だ達成されていない。これは、撮像のために必須である信号多重化が困難であることに起因する。本研究では交流駆動による信号多重化の開発を進めた。複数の信号を加算するために多入力SQUIDの設計を行い、高周波駆動のための駆動回路の高速化を並行して進めた。その結果185kHzでの駆動を実現し、現在複数素子の同時読み出しの準備を行っている。
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