私は、近傍宇宙のバリオンの約半数を占めると考えられている中高温銀河間物質(Warm-hot intergalactic medium)の観測を目指し、ヨーロッパのX線衛星XMM-Newtonでかみのけ座銀河団の周辺を観測した。銀河団の背後に位置するクェーサーのスペクトルには銀河団の赤方偏移に対応するNeIXの吸収線が存在した。また、銀河団周辺の広がったガスのスペクトルには、NeIXの特性輝線が存在した。これらは銀河団に付随して温度300万度程度の「中高温」のガスが存在することを示すものである。輝線と吸収線の強度から、中高温ガスは密度10^<-5>cm^<-3>程度で数10Mpcの長さで存在すると計算される。これらの特性は中高温銀河間物質の特性と矛盾がなく、銀河団に付随する中高温銀河間物質を観測で捉えたのだと言える。 また、中高温銀河間物質はダークマターの分布を最もよくトレースするため、その3次元マップを作成することは高温宇宙の構造、その形成過程を理解する上で非常に重要である。私は、そのために必要となる高精度分光器TES(Transition-edge sensor)マイクロカロリメータのアレイ化の開発、特に鍵となる極低温での信号多重化技術の開発を行った。信号多重化はTESを異なる周波数で動作させ、同時に読み出すことで実現する。私はまず、複数の信号を磁場で加算し同時に読み出せる8入力SQUID電流計を設計し、設計通りの性能が得られていることを確認した。そして、8入力SQUIDの駆動回路の開発を行い、周波数帯域を2倍にのばすことに成功した。また、帯域をさらにのばしていくための条件を明確にした。
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