火星のEastern Circum Chryse地域のマッピングに基づく地形学的研究を、バイキング画像データ、マーズグローバルサーベイヤーカメラ、マーズグローバルサーベイヤーのレーザー高度計で得られたデジタル地形モデル、さらにマーズオデッセイのTHEMIS画像データを用いて行った。この地域は、長さ2000km幅150kmにおよぶ洪水による巨大なアウトフロウチャンネルで区切られている。アルトフロウチャンネルは地球の氷河崩壊に伴う巨大洪水地形である、Channeled Scablandと類似しており、それに伴う水の流出は火星北部平原に海洋を形成したと考えられている。洪水の源地域は、カオス領域と呼ばれる凹凸の激しい地域である。地下の水が流出して表面が崩壊することでカオス地域は形成されるが、Chryse周辺地域のアウトフロウチャンネルの生成とは調和的である。本研究の結果により、年代の古い高地台地、カオス領域、そしてアウトフロウチャンネルが、どのように関係しているかが明らかになった。とくに、アウトフロウチャンネル河床の崩壊に伴うカオス形成の発見は、これまでの常識を覆すものである。 特にXante地域北西部のノアキス紀、ヘスペリア紀の地形の解析を行い、カオス状の凹凸地形が、高地領域とくにリンクルリッジに沿って発生していることを明らかにした。これは、圧縮性の応力場に支配された地下水流によりヘスペリア紀の物質が浸食された結果である。この(おそらくタルシス台地の形成に伴う)圧縮応力場は、リンクルリッジを形成するとともに、地下領域に圧力を加えたと考えられる。地下水の輸送は、圧縮場による断層系に従い、地表に出て谷地形を形成する。この圧縮応力場段階の地下水の水源は、Chryse盆地に周囲から集まり集積した水や、火山活動と凍土の相互作用により深部から抽出された水であると考えられる。
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