本研究は化合物半導体の有機金属気相成長法(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy : MOVPE)を用いた結晶成長において、現在解明されていない最表面でのIII族原子の振る舞いについて検討を行い、デバイス構造の最適化と特性向上を目的としている。初年度である平成十六年度は主に結晶成長時における最表面での偏析現象を理解するために、新しくsub-surfaceを考慮した結晶成長モデルを構築し、変調操作手法を用いた解析に取り組んだ。 具体的には、MOVPE成長において高温雰囲気中では結晶成長最表面は準安定状態であるため、原子の入れ替わりが起こりやすい遷移層(サブサーフェス)の状態になっていると提言した。これを解析するために、成長初期と成長直後の非定常状態を解析するために、原料の連続供給を細かく区切り繰り返し供給を行うことによって、非定常状態の割合を増加させることにより解析を可能とした。InPやGaAsの結晶成長においては変調操作を行うことにより成長膜厚が変化した。この変化については、サブサーフェスを介した結晶成長モデルを作成し実験結果との一致を得た。また、混晶系の材料であるInGaPについて変調操作による解析を行い、成長膜厚の変化と組成の変化が起こることを見出した。これはInPとGaPのサブサーフェスから結晶への取り込み速度の違いから起こるものと考えられ、モデルを立てて計算を行うことにより実験結果と同様の結果を再現した。また、このモデルを用いることによってInGaP結晶成長における最表面でのIn偏析現象についても説明が行えることが可能となった。これらの結果は今後の化合物半導体の結晶成長におけるデバイス構造最適化において基礎的かつ有用な情報と考えられる。
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