葉緑体分裂に関わる因子としてシロイヌナズナのARTEMIS遺伝子がある。この遺伝子はYidC/Oxa1/Alb3ファミリーというそれぞれバクテリア、ミトコンドリア、葉緑体の膜に存在するtranslocaseファミリーに属する。この変異体においては葉緑体の分裂が最後にくびれ切れる段階で停止するという報告があったが、その局在や他の分子との関係は明らかにされていない。私は単細胞紅藻C.merolaeのゲノムのホモロジー検索により、葉緑体型と思われるホモログを1つ見い出し、このタンパク質の抗体を作製した。生化学的手法や間接蛍光抗体顕微鏡法等によりその局在を調べた所、このタンパク質が葉緑体膜タンパク質であることが分かった。また、その発現は葉緑体の分裂周期を通じてほぼ一定であった。このタンパク質はtranslocaseであるため、他の分裂装置の膜への組み込みを通して葉緑体分裂に関わっている可能性がある。変異体を作成し、他の分裂装置の局在変化等を解析するため、シゾンの遺伝子破壊の技術の開発に着手した。形質転換を行うには、形質転換された細胞を選択するための選択培地とマーカー遺伝子が必要である。幾種類かの抗生物質や除草剤を試した結果、真核生物のタンパク質合成を阻害するシクロヘキシミドが有効であった。また、この過程で自然発生のシクロヘキシミド耐性株を得た。シクロヘキシミド耐性の酵母においてリボソームタンパク質L29の40番目の残基がGlnからLysまたはGluに置換しており、テトラヒメナにおいても相当する残基(テトラヒメナにおいてはMet)を同様に置換すると耐性が得られるという報告があることから、L29遺伝子の配列を解読した所、40番目の残基Met(ATG)がLys(AAG)に置換しており、この変異が耐性を付与したと考えられた。現在、この変異遺伝子をマーカーとした形質転換系の開発を行っている。
|