前年までに採取したDNA標本の解析をおこない、以下の結果を得た。 1.蒲生田で採取した産卵雌7個体とこれらが産んだ死亡卵と孵化幼体181個体分のマイクロサテライト3領域を解析した。この結果をもとに死亡卵から産卵雌を正確かつ簡便に識別する手法(母性解析)を確立した。次にこの手法を用いて、蒲生田で採取された母親不明な産卵巣28クラッチ482個体の死亡卵・孵化幼体から未知の産卵雌13個体を特定した。 2.屋久島の産卵雌48個体を、それぞれが産んだ卵の炭素と窒素の安定同位体比をもとに摂餌域利用を推定し、外洋グループ(N=8)と浅海グループ(40)に分類した。これらの個体のマイクロサテライト5領域を解析した結果、両グループ間に遺伝的差異はなく、摂餌域利用における生活史多型が遺伝的背景をもたないことがわかった。これにより集団解析をおこなう際に各産卵浜を地域集団の最小単位として扱えることが確認された。 3.蒲生田で採取した産卵雌10個体と母性解析で識別された産卵雌10個体のmtDNA調節領域約640bpの塩基配列を決定した。これらに南部(N=102)、宮崎(46)、屋久島(89)、吹上浜(22)の既知のデータ計259個体分を加えて新たに集団解析した結果、産卵浜間に強い遺伝的分化が認められ、母浜回帰性の存在が示唆された。さらに有意差の認められた産卵浜間の地理的距離から、母浜回帰性が少なくとも約100km以下の範囲で発揮されていることがわかった。 4.南部(N=115)、蒲生田(10)、宮崎(46)、屋久島(91)、吹上浜(21)から得た産卵雌283個体についてマイクロサテライト5領域を用いて集団解析をおこなった。その結果、南部から屋久島にかけて遺伝的分化が認められず、核DNAではmtDNAに比べて遺伝的分化が生じにくいことが明らかとなった。雄が産卵浜間の遺伝子流動を担っていると考えられた。
|