乳清酸性タンパク質(WAP)は、乳汁中のタンパク質の一つであり、妊娠中期から泌乳中期において、乳腺胞上皮細胞に高発現する。WAPの立体構造がセリンプロテアーゼインヒビター様であることから、乳腺形成において何らかの生物学的機能を有していることが推察された。本研究では、WAPの乳腺及び乳癌における機能を調べるため、WAP過剰発現細胞株を樹立し、細胞レベルでの解析を行っている。我々は以前、WAPが乳腺上皮細胞特異的に細胞増殖を抑制することを報告している。そこで、WAPが局在する細胞膜周辺における機能を解明するため、細胞外マトリックス(ECM)に焦点をあてて研究を行った。1)マウス乳腺上皮細胞株HC11-mock株とHC11-WAP株が産生し蓄積するECMの量を測定したところ、WAP株のほうが有意に蓄積ECM量が多かった。また、ECMの構成因子をそれぞれ塗布したプレート上で、クローン株を培養したところ、Lamininを塗布したプレート上での細胞増殖が有意に抑制されていた。そこで、2)WAPがLamininの分解を阻害しているのかどうか調べるため、WAP株とmock株の培養上清液を用いて、Lamininを基質にセリンプロテアーゼ活性を調べた。その結果、WAPはエラスターゼによるLamininの分解を阻害することが示され、一方トリプシン阻害作用は認められなかった。3)乳癌細胞の浸潤に対するWAPの機能を調べるため、擬似基底膜を用いてヒト乳癌細胞MCF-7株の浸潤能を比較した。MCF-7-WAP株はmock株と比較して、細胞の浸潤が約20%であった。疑似基底膜マトリゲル内のLaminin量を測定したところ、WAP株ではlaminin分解が抑制されていた。
|