細菌のDNA複製開始は、DnaAの活性により厳密に制御されている。これまでにin vitroで、酸性リン脂質はDnaAを再活性化することが報告されており、また、我々の研究の結果から、塩基性リン脂質であるリジルフォスファチジルグリセロール(LPG)がこのin vitroの再活性化を阻害することが見出されていた。しかし、これまでにin vivoにおいては、証拠がほとんど得られていなかった。 平成16年度に私は、LPGの欠損株では、細胞の分離過程に異常がみられるがDNA複製には異常が見られないという結果を得た。この結果は、LPGがDnaAの活性に影響をあたえるという我々の仮説を支持しない。この結果の解釈として、我々は、染色体のDNA複製には、リン脂質以外にも、DnaAの合成量変化やDNAのメチル化の程度など、別の複数の要因が関与しているため、LPG欠損の効果は他の制御系により代償されていると考えた。そこで17年度では、染色体上の複製開始部位をプラスミドにのせたoriCプラスミドに着目し、このプラスミドの複製がリン脂質により影響をうけるか検討した。その結果、LPG欠損株では、oriCプラスミドのコピー数が増加していることを見い出した。さらに我々は、LPG欠損によるコピー数増加が、DnaAの再活性化阻害によるのかを検討した。活性型のDnaAは、DnaAの再活性化、もしくはDnaAの新規合成により生じる。もしLPGの効果がDnaAの再活性化阻害ならば、DnaAの新規合成を抑えた時にその効果が明瞭になると予想される。そこでDnaAの新規合成を抑えた条件で、oriCプラスミドのコピー数を調べたところ、我々の予想どおり、LPG欠損株でのコピー数の上昇がさらに明瞭になった。これらの知見は、LPGがin vivoでもDnaAの再活性化阻害に働くことを示唆している。
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