研究概要 |
輝度,色,形態,奥行き,運動などの視覚情報は,異なる領野において処理された後(視覚の機能局在),それらが統合されて,一つの物体としての知覚が成立することが知られている.この統合過程(Binding Problem)についてはまだ明らかになっておらず,脳研究の最重要課題の一つと考えられている.本実験では,色運動非同期錯視と呼ばれる錯視を用いて,知覚的同期に基づく色と運動の統合過程について検討した.この錯視は,2Hz程度の比較的早い周波数で刺激の色と運動方向が同期して変化すると両者がずれて知覚される現象であり,運動方向の変化を100ms程度先行させた場合に,両者が同期して知覚される.本錯視では,色変化と運動方向変化の同期知覚が,物理的に同期していない条件において成立するため,この刺激を用いたMEG計測により,物理的同期ではなく,知覚的同期に特化した脳活動の計測が可能である.そこで,1.色の反転,2.運動方向の反転、3.色と運動方向の反転(両者が物理的に同期),4.色と運動方向の反転(運動が100ms先行),の四刺激に対するMEG計測を行った.心理物理実験により,3の刺激では被験者が色と運動を同期して知覚せず,4の刺激では両者を同期して知覚することを確認した.色反応と運動反応の相互作用を,3,4それぞれの反応から,1の反応と2の反応の和を差し引くことによって定義し,この相互作用を加算波形,時間周波数領域の双方で算出した.その結果,加算波形の相互作用は,知覚的同期,非同期の条件間で有意に異ならなかった.一方,時間周波数領域における相互作用を算出した結果,ガンマ帯(30Hz-)における相互作用が,知覚的同期の条件において有意に大きくなった.このことから,ガンマ帯の活動が運動情報と色情報の統合に関与している可能性が示唆された.
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