R2は28SリボソーマルRNA遺伝子に特異的に挿入されるレトロトランスポゾンである。レトロトランスポゾンの標的配列特異性は、宿主への害を最小限にしつつ自身の増殖を図る生存戦略と捉えることができる。私はこれまでの研究において、このR2が節足動物、脊索動物、棘皮動物、扁形動物の4つの動物門にまたがって分布していることを明らかにしてきた。本年度の研究においては、これらの動物門よりも早くに分岐した刺胞動物において、R2およびそれに近縁なレトロトランスポゾンを発見した。 イソギンチャクの一種Nematostella vectensisのゲノム配列情報からR2に近縁なレトロトランスポゾンを発見し、これが他のR2と同じ標的配列を持っていることを明らかにした。一方、ヒドラHydra magnipapillataのゲノム配列情報から2種類のR2に近縁なレトロトランスポゾンを発見したが、これらの標的配列はR2とは異なり、18SリボソーマルRNA遺伝子中に挿入されていることがわかった。これは、新規の配列特異性であり、R8と命名した。 複数の手法を用いた系統解析の結果では、イソギンチャクのR2は予想通り他のR2と近縁であったが、興味深いことに、ヒドラのR8も系統上R2の内部に位置した。このことから、R8はR2に属するレトロトランスポゾンが、標的配列を変更して誕生したレトロトランスポゾンのグループであることが示された。また、R2の配列特異性の起源が、三胚葉動物の誕生以前にまで遡ることが明らかとなった。これら2つの結果はリボソーマルRNA遺伝子への配列特異性がレトロトランスポゾンの生存戦略として有効に働いていることを示している。
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