本研究の目的は、国際社会での規範形成においてグローバルに連携した人々やNGO、すなわちトランスナショナルな市民社会が果たしている役割について、(1)国際政治理論と(2)トランスナショナルな市民社会運動のフィールドワークを通じた事例研究の双方を架橋することで明らかにすることである。 本年度はトランスナショナルな市民社会の現状と事例研究の対象である重債務帳消しキャンペーンJubilee 2000ならびに、その発展形態としてのMake Poverty History(日本では「ほっとけない世界の貧しさ」)のキャンペーンの政治過程を把握すべく、英仏各国の研究機関・NGOと情報交換・インタビュー調査を行った。 具体的には英国のNGOであるChristian Aidで資料収集をするとともに、同NGOとともにエディンバラとグレンイーグルズでの先進国首脳会議のキャンペーンに参加し、アドボカシーによる各国政府とメディアへの働きかけ、キャンペーンへの市民参加の実体を現場で把握することができた。くわえて、仏国でJubilee2000のキャンペーンを担っていたアソシアシオンCCFDが仏国におけるホワイトバンドのキャンペーンを実施していたため、その資料収集と各国NGO間の稠密なネットワークの把握に成功した。 さらに本年度は、これまでの研究成果の一部を海外の学会にて報告する機会に恵まれた。米国の国際関係論学会であるInternational Studies Associationのマイアミ研究大会での報告では、第二次大戦後の国際経済体制の制度構想とその実務家らによる実践において周縁化されていた地域の存在が途上国債務発生のメカニズムといかに関連しているのか明らかにした。 また、フィールドワークから得られた市民社会による規範醸成の理論と実践についての知見と、国際政治理論における規範と秩序、グローバルガヴァナンスにかんする研究から得られた成果の一部は論文として下記の3誌に掲載した。また、国際関係論におけるリベラリズムの変容とトランスナショナルな市民社会の可能性についての論考も執筆した。
|