本年度は主として1.琉球弧における「民族」概念についての史料収集と分析、2.植民地期朝鮮との比較による同主題の東アジア近代史への再定位、3.西洋の視線から見た「琉球処分」像の収集と分析、を行った。 1.については琉球大学での研究発表にあわせて沖縄県内の大学・資料館で調査を行い、近世〜明治期については得られたデータを校正時に加えて『日本思想史学』誌上に成果を公表した。大正期以降、同概念が祖先論・血縁論とも絡み合いつつ離島地域にも流布し、旧来の生業間・地域間の差異が「民族」の違いとして読み替えられていく過程についても言説を収集し、次年度に投稿するべく論文を執筆中である。 2.については東西大学校(釜山)での研究発表および日韓両国の朝鮮史研究者との議論を通じて検討を深め、伊波普猷と李光洙との比較という形で成果を『日韓次世代学術フォーラム論文集(仮)』に掲載予定である。既存の「国家」との間の齟齬感が「民族」として表出されるという現象を、世紀転換期東アジア諸地域に共通する問題として捉えるとともに、アイデンティティを「イデオロギーの内面化」ではなく「言説とカテゴリーの資源化」として把握しなおすための方法論的吟味を行った。 3.については英国大英図書館新聞課および仏国人類博物館図書室にて史料調査を実施し、特に前者で得られた上海居留地の英字新聞記事から、在中日本公使館が現地新聞人を雇って行っていた「琉球処分」正当化工作の実態を明らかにした。居留地の英語言論圏が日中間にある種の「公共性」を提供した一方で、未だ東アジアの国際秩序観を完全に近代西洋のそれに包摂するには至っておらず、特に「人種論」の扱いにおいては差異があったことを解明し、論文化も完了させ現在投稿中である。 なお、上記を含む本年度の発表成果は、査読誌掲載1・同投稿中2・学会発表2・国際会議発表2(うち論文集掲載1)である。
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