本年度は(1)「琉球処分」当時の世界システムにおける人種論の位相の再検討、(2)戦前期琉球弧における「民族」概念の展開、(3)明治日本の家族法制における「血統」概念の機能、について研究を行った。 (1)については研究成果を民族理論批判としてまとめ『文化人類学』誌上に発表したほか、新たに米国(ハーバード大学図書館、議会図書館、国立公文書館)での史料調査を行い、所謂グラント調停交渉についての外交官報告とメディア報道の様相、および同時代の米国における人種論についての史料を収集し、分析を進めている。また当時の東アジア英字新聞における「琉球処分」の正当性をめぐる論争と明治政府の対応についても、研究成果を翻訳論および公共性論の観点から集約し、国際関係思想についての研究会で報告したほか、投稿を継続中である。 (2)についても研究成果を『沖縄文化研究』誌上に発表したほか、沖縄県立図書館郷土資料室での史料調査によって、新たに戦前期における「糸満漁民=異民族・白人種」論の系譜を発掘し、また明治末〜大正期の県内新聞紙における「辛亥革命」観と「大正政変」観の分析を通じて、現地青年の日本への「同化」が単なる民族的同一性によってではなく、むしろ普遍的理想の追求の過程としてなされたことを解明した。これらについては現在論文化を進めており、来年度中の投稿を予定している。 (3)については民法典論争期の家族論を集中的に考察することで、特に「観念」としての「血統」を「家」の統合力の象徴として用いた穂積八束の思想を媒介に、「日本人は血縁を重んじる」という今日の「誤った」自己イメージが形成されてくるプロセスを解明した。その成果は日本民俗学会および日本思想史学会で報告し、現在投稿中である。 なお、上記を含めた今年度の研究成果は、査読誌掲載2(内印刷中1)・同投稿中2・国内学会発表2・国際会議発表1・国内研究会発表3、である。
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