本年度は主として、(1)既存の研究成果の活字化、(2)沖縄県での追加調査に基づく、近代の同地域における「人種」・「民族」概念の位相の総合的解明、(3)本研究全体の実証的成果を踏まえた、より理論的・普遍的考察の定式化、を行った。 (1)については、「琉球処分」当時の世界システムにおける人種論の位相を再検討した論考を『歴史評論』に、明治日本の家族法制における「血統」概念の機能を解明した論文を『比較日本文化研究』に、それぞれ掲載した。 (2)については、戦前期の琉球弧社会において明治末期から糸満漁民が「異人種・異民族」視されるようになったが、戦中期の国家総動員政策の下で「日本民族」へと吸収・同化されていく過程を、沖縄県立図書館郷土資料室での史料調査および糸満市での現地調査によって総合的に解明し、共著論文集『琉球弧・重なりあう歴史認識』の一章として刊行した。一方、そのような人種的・民族的な同一性の言説によってではなく、あくまでも普遍的な「理想」や「価値」への「同化」を標榜していた明治末期の県内青年層たちの政治思想についても、同県への追加史料調査を実施し『中国研究月報』誌上に論文を掲載した。 (3)については、本研究を通じて明らかになった近世・近代東アジアにおける「人種・民族」概念の政治的役割をレイシズム研究の文脈において理論化し、関連するシンポジウム及び研究会で発表した。グローバル・ヒストリーにおける「前近代東アジアの先進性」という論点を参照することで、西洋産の議論では「新人種主義」と呼ばれている現象を、むしろ「近世への回帰」として捉えなおすという問題提起を行い、刊行予定のシンポジウム報告書にも寄稿している。 なお、上記を含めた今年度の研究成果は、共著執筆1、査読誌掲載3、紀要・報告書掲載2(内印刷中1)、ニューズレター執筆1、国内学会発表2、シンポジウム発表1、研究会発表3である。
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