研究概要 |
本年度は,農業部門内での用水配分システムの選択についての実証的研究を行なった.というのも,農業部門内部での用水配分システムのあり方が,セクター間の資源の再配分である用水転用のフィーズィビリティに影響を与えるからである. 研究成果として,長野県飯山市における一元的用水配分システムの形成について詳細に検討した.このシステムは,古い慣行ではなく,水利施設の近代化とともに新しく形成されたものであり,地域の集団的機械利用の効率性と公平性が原動力となって形成された可能性が高いことを明らかにした.さらに,農業部門内の配水という同様の観点から,International Water History Association (IWHA)他,中国雲南省関係機関の共同開催で行なわれたInternational conference on Water Culture and Water Environment Protectionにおいて発表した研究として,満濃池における渇水期の水配分の慣行が,用水配分システムの近代化を経てもなお渇水期には効率性と公平性のバランスの上に成り立った配水のための一種のセーフティーネットとして再現されるという現象を水文化と定義して論じた. 以上のことから,慣行的配分システムか新規に形成された配分システムかの違いはあれ,特に渇水期や代かき期な水の超過需要期の農業部門内部での水配分の制度選択は,配分の効率性と公平性の両立を考慮したうえで選択されるという点に注目しなければならず,例え用水転用が社会全体の観点から効率性を高めるものであったとしても,農業部門内の構成員に転用による余剰がどのように分配されるかによっては,用水転用の取引費用は高くなり,結果として実現しない可能性が高くなる.まして,新開国のように配分効率を高める売水制が選択される可能性はより低いと推察される.この点については,来年度の課題である.
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