研究概要 |
本年度4月-7月に金星地上観測好期を迎えるに際し,私は以下の主題で地上観測を展開した. 1.近赤外光学観測による金星下層大気のモニター観測 私は県立ぐんま天文台の近赤外分光観測装置を利用し,金星下層大気中(高度40km前後)の一酸化炭素分布をモニター観測した.過去の観測結果と比較をすることで,金星下層大気中の一酸化炭素分布には金星での雲層の分布が影響を及ぼしていることを示した. 2.ミリメートル波による金星大気の電波観測 本年度4月に野辺山ミリ波干渉計を利用した金星大気電波観測を行なった.電波領域では近赤外光学観測では把握不可能な金星上層大気(高度90km以上)の(i)風,(ii)一酸化炭素分布あるいは雲層(高度60km前後)にかけての(iii)温度構造および吸収物質の偏在が観測可能となる.私は連続した2日間に及んで高精度の観測結果を得ることに成功した.現在解析途中の段階ではあるが既に,上層大気において(i)昼面から夜面に向かう風の存在や,(ii)夜面で100Kにも及ぶ輝度温度減少(一酸化炭素の夜面への濃集を示唆)が導出されている.雲層での大気構造に関しても,(iii)夜面での約40Kの輝度温度増大を導出した.これは吸収物質である硫黄化合物が夜面では少ないことを反映していると考えられる。野辺山ミリ波干渉計を用いて金星大気の観測を行なったのは本観測が初めてであり,私は電波干渉計を利用した惑星観測特有の解析方法を確立した.また,金星雲層の大気構造をターゲットにした電波観測は海外でも極めて稀であり,本観測で得られた雲層での輝度温度分布差は非常に興味深い結果と言える. これらの観測結果をより理解するべく,放射輸送を取り扱った計算モデルを作成した.
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