ブラックホールが蒸発する現象を適用し、宇宙が4以上の次元を持っているという仮説の検証を進める研究を行なった。 研究対象とした高次元宇宙モデルの一つは、RandallとSundrumの提案したブレイン宇宙である。銀河系内にダークマターとして存在する可能性が指摘される始原的ブラックホールは、宇宙線として地球に到来する反陽子の放出源の候補の一つと見られているが、その蒸発の過程は通常の4次元宇宙とRandall-Sundrumモデルの宇宙とで大きく異なる。そこで、始原的ブラックホールが蒸発し放出される反陽子の流束量をブレイン宇宙の性質を取り込んで計算し、BESS実験による地球大気上層での反陽子流束の測定結果と比較した。成果として得た、ブラックホールの存在量およびブレイン宇宙を特徴付けるパラメターへの制限等は、Physical Review D誌に掲載された。また、初期宇宙における宇宙の膨張速度が通常と異なるのもブレイン宇宙の特徴の一つである。この性質は、宇宙最初期のインフレーション的膨張によって生じた密度揺らぎからの始原的ブラックホールの生成量に大きく影響するため、ブレイン宇宙におけるインフレーション期を調べる手がかりとなる。始原的ブラックホール生成量がブレイン宇宙におけるインフレーション起源密度揺らぎのパラメターにどのように依存するかを定式化し、日本物理学会2004年秋季大会で発表した。 もう一つ研究対象とした高次元宇宙モデルは、DvaliとGabadadzeとPorratiによって提案されたブレイン宇宙である。このモデルでもブラックホールの蒸発は通常の4次元でのそれと大きく異なると予想されるが、ブレインに局在化したブラックホール解がまだ知られていないため、足がかりとしてブラックホール解を構成するためにバルクを「切る」スライシングの手法の解析を行なった。結果として、5次元ブラックストリング解におけるスライスの唯一性と、5次元Schwarzschild解におけるスライスの非存在を見出し、日本物理学会第60回年次大会で発表した。
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