1 研究課題であるブラックホール蒸発現象を利用した高次元宇宙モデルの検証のためには、通常の四次元宇宙と異なる状況でのブラックホールの形成過程がよく理解されなければならない。通常よく考慮される球状の物質を重力崩壊させる過程では、四次元であれば重力波は放出されないことが知られているが、宇宙が高次元であればその限りでない。この予想を、五次元Randall-Sundrum膜宇宙モデルに基づいた現実的な重力崩壊の過程に適用し、重力波の放出率を定式化した結果をKinoshita et al.(2005)に論文としてまとめた。この論文で行なった解析は余次元の広がりに対し十分大きな物質分布を考えたものであり、その範囲ではただちに現行の重力波干渉計での観測に掛かる振幅を与えるものではないことが示されたが、一方、研究代表者が手がける、宇宙初期の原始ブラックホールの生成に当たってはおびただしい重力波が放出されうることを示唆するものである。 2 超弦理論と類似の構造を備える新しい高次元宇宙モデルとして、磁束によって支持される曲がりを持った有限な大きさの二次元余次元を持つ、六次元膜宇宙モデルに着目し、我々の宇宙としての四次元膜上での重力相互作用、および解自体の安定性について調べ、Mukohyama et al.(2005)およびYoshiguchi et al.(2006)にまとめた。膜状の張力が変化することに対して宇宙膨張が通常の宇宙論と同じように応答することを示し、摂動に対する解の動的安定性を示すことができた。これらの結果は、この新しい高次元モデルが現実的な宇宙を表わすモデルとなりえることを示唆する。このモデルにおけるブラックホール解の性質についても解析を進めており、結果の一部は2006年3月の日本物理学会で発表する予定である。
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