短距離力で相互作用するフェルミ気体において、散乱長が発散する強結合領域はユニタリー極限と呼ばれ、特に興味深い領域である。ユニタリー極限では次元を持った量が密度だけであることから、その物理的性質は相互作用の詳細に依らず普遍となる。しかし次元を持った量が密度しか存在しないことは、摂動計算に使える展開パラメータが存在しないことを意味する。従って、ユニタリー極限では理論計算は難しいと考えられており、これまで系統的な解析計算は存在しなかった。 本研究では、ユニタリー・フェルミ気体において空間次元の4からのずれ(イプシロン=4-d)が展開パラメータとして使えることを示し、イプシロン展開に基づく系統的な解析方法を初めて確立した。その上でユニタリー・フェルミ気体の状態方程式、フェルミ準粒子の分散関係、超流動相転移の臨界温度など様々な物理量について、イプシロン展開の最低次とその次の次数までで計算を行った。これらの計算結果を空間次元が3の場合に外挿することで、数値シミュレーションの結果や実験値と驚くほど良く一致する値が得られた。 本研究で構築したイプシロン展開は、ゼロ温度のユニタリー・フェルミ気体において現在存在する唯一の系統的な解析方法である。ここで得られた成果は、近年盛んに実験が行われている原子気体系だけでなく、中性子星などの核物質系などにも広く適用可能である。これまで理論計算は難しいと思われてきた中で、イプシロン展開に基づく系統的な解析方法を確立した本研究は、「強く相互作用する量子多体系の新しい解析方法の確立」、「ユニタリー・フェルミ気体の普遍パラメータの定量的計算」という両方の意味で理論的にも実験的にもインパクトは大きい。またイプシロン展開は、数値シミュレーションが適用できない場合、例えば粒子数に非対称性が存在する場合や輸送係数など動的性質の解明にも有用である。
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