惑星表面の温度・圧力条件は主に惑星大気によって決定されている。惑星表面に液体のH_2Oが存在する熱力学条件が満たされるには惑星大気の存在が必要不可欠である。天体衝突時に衝突地点で生成される衝突蒸気雲(衝突天体と衝突地点の惑星表面の岩石の一部が蒸気化したもの)は一般に非常に高圧であり、大気中を急速に膨張することで元々存在していた惑星大気を加速し散逸させる働きがある。一方、生成した衝突蒸気雲自身が惑星に残る場合、その揮発性成分が大気として供給される。液体のH_2Oの有無を考えるためには、この大気量に対する散逸・供給の二つの働きをそれぞれ検証し、多数の天体衝突が繰り返されたとされる隕石重爆撃期(~38Ga)の惑星大気量の変遷について明らかにする必要がある。 十分な精度で非常に広範囲な計算を行うためにCIP法を用いた二次元軸対称の流体計算コードを開発した。このコードを用いて蒸気雲の膨張とそれに伴う惑星大気の運動の計算を行った。高圧の蒸気雲は急速に膨張して大気を圧縮し、その結果大気中には強い衝撃波が形成される。この衝撃波の形状は大気の密度成層の影響を受け鉛直方向に長く伸びた形となるという準解析解や先行研究と同じ結果が得られた。しかし地表付近の大気の振る舞いについては、特に規模の大きい衝突現象の場合には、従来考えられていたような動経方向に直線的なものではなく、圧縮されてできた高圧の大気層によって上方向に大きく曲げられて運動することが分かった。衝突天体の半径・速度、惑星大気の大気圧・スケールハイトの4つについてパラメータスタディを行い、大気散逸量と蒸気雲残存量のパラメータ依存性を系統的に求めた。上述した地表付近の大気の運動の仕方の違いによって衝突の規模が大きい場合と小さい場合とでパラメータ依存性も異なることがわかった。今後は隕石重爆撃期の衝突フラックスを与えて大気散逸量と蒸気雲残存里を積算し、大気量の時間変化を求める予定である。
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