研究課題
平成14-15年には、都市大気においてオゾン・エアロゾルの重要な前駆物質である硝酸の挙動解明のために硝酸測定用の化学イオン化質量分析計を開発した。本年度は、その装置を用いた大気観測により以下の2点を明らかとした。1.平成15年の5月、8月、10月、1-2月に東京都目黒区で行った観測データから、気相の硝酸と硝酸塩エアロゾルとの交換反応が主に温度と相対湿度の熱力学パラメタで支配されていることを見出した。そのために夏季には硝酸が、冬季には硝酸塩エアロゾルが支配的であるという明確な季節変動、および夜間に比べて日中に硝酸の割合が大きくなるという明確な日変動を示していた。また、熱力学平衡モデルを用いた解析から、硝酸と硝酸塩エアロゾルとは夜間は熱力学平衡状態にあるものの、日中には温度の鉛直勾配が強い大気境界層内(高度1.5km程度)での対流性の鉛直混合によって熱力学平衡が成立していないことが分かった。この鉛直混合の効果を定量化するために1次元モデルを考案し、その計算結果より、地表に比べて気温が低くエアロゾルが生成されやすい上空からの気塊の流入が地表におけるエアロゾル濃度を増大させていることを発見した。2.平成16年の7-8月に東京都目黒区と埼玉県騎西町の2点で観測を行った。私はこの観測データから夏季日中に特徴的な広域海風によって都市から郊外へ輸送される間の硝酸の生成・変質過程を明らかにする予定である。初期解析の結果から、オゾンの直接の前駆物質である反応性窒素酸化物は東京から埼玉に輸送される間に水酸化ラジカルによる酸化反応によって硝酸に変換していることが分かった。この結果は、都市の汚染大気中の反応性窒素酸化物が郊外に輸送される間に硝酸に変換されることによってオゾン生成能が減少していることの直接的な証拠であると言える。
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Journal of Geophysical Research 109,D15S12
ページ: doi:10.1029/2003JD004203