1.データ解析 私は平成14-15年に硝酸測定用の化学イオン化質量分析計を開発し、その装置を用いて平成15年5月から平成16年8月にかけて東京都目黒区と埼玉県騎西町で行われた地上観測に参加してデータを取得した。また、このデータ解析のために熱力学平衡モデルを大気境界層の鉛直拡散モデルと結合させた1次元モデルの開発を平成16年度に開始していた。本年度にはこのモデルを完成させて計算を行い、観測データとの比較を行った。その結果、鉛直拡散の効果を加えた1次元モデルでは、熱力学平衡モデルと比較して硝酸塩エアロゾルの濃度が良く再現された。また、2つのモデルを比較したところ、大気境界層内の鉛直混合によって地表の硝酸塩エアロゾル濃度は夏季に140%、秋季には30%増大するという計算結果が得られた。以上のように、硝酸塩エアロゾルの濃度に鉛直混合が重要な役割を果たしていることが本研究により初めて示された。この結果をまとめた論文は、Journal of geophysical researchに受理され出版準備中である。また、エアロゾル相の塩化物の濃度も、硝酸と同様に鉛直拡散を考慮した1次元モデルではより良く再現されることを発見した。これは、鉛直混合が地表のエアロゾル濃度に大きな影響を与えていることを支持する重要な結果である。 2.3次元化学輸送モデルによるシミュレーション 国立環境研究所や米国大気科学研究センターとの共同研究により、関東域において3次元気象モデルと化学輸送モデルを用いて硝酸と硝酸塩エアロゾルを含む化学成分のシミュレーションを行った。この計算では、気象庁の観測ネットワークのデータに同化させながら計算するなどの工夫により、関東平野での風系やオゾン・窒素酸化物濃度が概ね再現された。今後、この計算結果を解析することにより、都市から郊外へと輸送される際の硝酸の変質過程を定量的に研究することができる。
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