研究概要 |
これまで用いてきたサブピコ秒時間分解赤外分光装置の改良を行った。ボックスカー積算器からAD変換ボードを通じてパソコンにデータを取り込むという検出系を改善し、外部からの遮蔽効果をより大きくし、さらに、よりビット数の大きいAD変換ボードを用いた。この改善によって検出限界5×10^<-4>という高い感度を達成できた。また、赤外光を発生させる非線形光学結晶をより変換効率の大きいGaSe結晶に変更した。 本装置を用いてタングステンヘキサカルボニルと、その配位子を交換することで合成した分子W(CO)5(CS),W(CO)5(CH3CN)についてCO伸縮振動の振動エネルギー緩和過程を観測し、緩和速度やその溶媒依存性を調べた。タングステンヘキサカルボニルの振動エネルギー緩和過程における信号の異方性減衰を伴った過程は、同一分子内での縮重した振動間のエネルギー移動と従来考えられていたが、本研究での誘導体の結果から、その過程が分子内エネルギー移動のみを反映したものではなく、分子そのものの溶液中での回転もその過程に影響をおよぼしているという結果が得られた。また、W(CO)5(CH3CN)分子の観測の結果、配位子がCOよりも振動モードの多いアセトニトリル分子に変わることで振動エネルギー緩和速度が非常に速くなった。また、アセトニトリル置換体ではタングステンヘキサカルボニルよりも溶媒を変化させたときの緩和速度の変化率が小さかった。これらのことから、溶媒へのエネルギー移動が緩和速度を決定するタングステンヘキサカルボニルと異なり、アセトニトリル置換体ではアセトニトリル配位子へのエネルギー移動が緩和速度を決定していると結論づけた。このように、時間分解赤外分光によって、振動エネルギー緩和に関するより具体的な情報を得ることができた。 ピコ秒チタンサファイアレーザーをもととした時間分解赤外分光装置に必要な機材を購入し、現在製作中である。サブピコ秒パルスを用いた装置と異なりスペクトル幅の狭いピコ秒レーザーを用いることで、対象とした振動のみを効率よく励起することが可能であると考えられる。
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