学術振興会特別研究員として、Lnkアダプタータンパクの造血幹細胞の自己増幅の分子機構の解明を目的として研究を行っている。3年間の研究計画の2年目にあたる平成17年度はLnk KOマウスと野生型マウスの造血幹細胞における遺伝子発現をマイクロアレイを用いて比較することに主眼をおいた。定法により検討を行ったところ、結果に再現性が得られず、造血幹細胞というきわめて数の少ない試料を用いる難点をクリアするに至らなかった。Lnkシグナルの標的分子を探索するために、遺伝子発現を網羅的に比較する、新たな方法を模索する過程で、HiCEP法に着目した。この方法は、放射線医学総合研究所HiCEPセンターが確立した方法で、標識した転写産物をキャピラリー電気泳動法により、分子量とシグナル強度から、遺伝子発現を網羅的に定量できる方法である。マイクロアレイに比べて再現性が極めて高いのが特徴であるが、わずかな細胞数での解析の実績に乏しいのが現状である。現在は、同センターと共同で、多能性造血前駆細胞を用いて、少ない細胞数で再現性が得られるかを検討中である。また、同様に造血幹細胞研究を進める過程で、新規遺伝子である、Tmtspの解析に取り組んでいる。この遺伝子は、造血幹細胞や前駆細胞に特異的に高発現し、細胞の遊走・移動に重要なThrombospondin-1ドメインを持つ膜貫通型タンパクをコードしている。Tmtsp遺伝子座に蛍光タンパク遺伝子Venusを挿入したknock-inマウスの作製に成功し、現在はその解析を進めている。
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