本研究は動物の忌避行動が外界からの刺激によって引きおこされるメカニズムを、嗅覚系をモデルシステムとして解き明かすことを目的としている。この目的のためには、嗅覚系の基礎的な構造について解明する事がまず必要である。平成17年度には昨年度までに行った嗅球外側部における匂い地図の構造について得られた知見を、嗅球背側部で得られた知見と共に纏め、Physiological Reviews誌に投稿した。この論文は現在印刷中である。 さらに、忌避行動を引きおこすことが知られているTrimethyl thiazolineをはじめとする硫黄原子を含んだ匂い分子を用い、嗅球外側部の糸球が含硫分子に対してどのような応答特性を示すかを調べた。内在性信号の光学測定法を用いたin vivo実験により、複数の含硫匂い分子に対する糸球の応答を記録、同一の糸球がどの程度の範囲のニオイ分子に応答するかを測定したところ、嗅球外側部には2種類のグループの糸球が存在することが判明した。第一のグループは含硫分子のみに応答し、炭化水素類や極性官能基を持つ分子群には応答しなかった。これらの糸球は糸球クラスターH内に存在した。第二のグループの糸球は含硫分子のみならず炭化水素分子、極性官能基を持つ分子にも応答し、糸球クラスターI内に存在していた。これらの事実は、嗅球上では少なくとも2つ以上の糸球クラスター(糸球クラスターHおよびI)で表現されていることを示している。この結果は2005年の北米神経学会で発表した。
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