アルツハイマー病(AD)患者脳内に蓄積する老人斑の主成分は、アミロイドβ蛋白質(Aβ)である。AβはAD発症に深く関わるとされ、その産生を担うγセレクターゼの切断機構の解明は、ADの病因解明、治療・予防薬の開発にあたって極めて重要である。近年FAD病因遺伝子産物であるpresenilinを中心としたnicastrin、APH-1、PEN-2を含む高分子量膜蛋白質複合体がγセレクターゼの本体であるとする結果が集積しつつある。そこで、γ部位での切断機構の分子レベルでの理解を目的とし、このγセレクターゼ活性を持つ膜蛋白質複合体のin vitro再構成系の確立を行い、酵素学的解析や構造解析によりその性状を詳細に解明することを目的に研究を行った。 本年度の研究においては、まず、Sf9/バキュロウイルス発現系を用い、presenilin、nicastrin、APH-1、PEN-2を共発現させることにより、断片型presenilinを含む活性型γセレクターゼ複合体を発芽型バキュロウイルス(BV)上に選択的に再構成することに成功した。 続いて、構造解析を目的としたγセレクターゼ複合体の精製法の確立を行った。γセレクターゼ複合体を発現するSf9細胞から、ゲル濾過クロマトグラフィーカラム、ニッケルキレーティングカラム等の蛋白生化学的手法を組み合わせ、γセクレターゼ複合体およびその活性を精製・濃縮することに成功した。精製したγセクレターゼ複合体をネガティブ染色し、電子顕微鏡を用いた単粒子解析法により構造解析した結果、520x360x240Åの大きさの複合体再構成像を48Åの解像度で得ることに成功した。この結果は、Biochemical and Biophysical Research Communications誌に発表した。
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