本研究では、我々独自の全く新しい知見にもとづいて、腸上皮の分化・再生過程に骨髄細胞-腸上皮細胞相互作用が密接に関わる可能性につき追究している。 1)分泌型ヒト腸管上皮の粘膜免疫における重要性 a)IL-7受容体を介する細胞刺激が特に大腸炎局所における粘膜リンパ球に対し強い増殖活性を有すること見い出した。b)ヒト腸管上皮細胞株の解析に因り、IL-7が杯細胞特異的に発現しているIRF-1により刺激依存性に発現誘導されている事を見い出した。以上の成果は、ヒト杯細胞が粘液産生のみならず、腸管粘膜の免疫防御機構に重要な機能を有することを明確とし、さらにヒト大腸における主たる分泌型上皮である杯細胞の分化制御が大腸炎治療の新規治法となり得る可能性を明確にした。 2)腸炎からの回復過程における骨髄由来腸管上皮細胞の分泌型上皮への誘導機構 a)ヒト異性間骨髄移植患者の生検組織の解析より、骨髄由来上皮が分泌型及び吸収型双方の特異的機能を有する成熟した上皮細胞となり得ることを明かとした。b)GVHDからの回復期における再生粘膜上皮の解析から、上皮再生過程では骨髄由来細胞の分泌型上皮への分化が有意に増加する一方、吸収型上皮への分化は減少することを明かとした。c)腸管上皮内に内在する幹細胞由来の上皮細胞群ではGVHD後の再生腸管粘膜における分化傾向の変化は見られないことを明確にした。以上の成果は、ヒト骨髄由来細胞が上皮特異的機能を有することを明確に示した初めての知見であると同時に再生腸管上皮において骨髄由来細胞が分泌型上皮に誘導される独自の分化制御機構の存在を提示すものである。これらにより、骨髄由来上皮細胞の分化制御機構を人為的に制御することにより、より多くの骨髄由来分泌型上皮細胞を誘導し得る可能性が示され、腸管粘膜修復を標的とした新規治療法開発の基盤となる可能性が示された。
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