我々はこれまで、キュウリやトマトの半分に切断された胚軸の癒合過程において、切断後3日目から生じる皮層の細胞分裂に、子葉(葉)からのジベレリン(前駆体)の供給が必須であることを明らかにした。またその際、細胞接着に重要な細胞壁多糖であるペクチンが活発に合成されることも見いだした。 キュウリ・トマトの実生でのジベレリン生合成における子葉の役割を解明するために、GC-MS、及び、近年開発されたLC-MSを用いた新規解析法による内生ジベレリン量の測定、およびリアルタイムPCR法を用いた生合成酵素遺伝子の発現解析を行った(理化学研究所・植物科学研究センターとの共同研究)。その結果、実生から子葉を切除することで、キュウリ・トマト胚軸の内生ジベレリン量の減少、及び、ジベレリン生合成遺伝子の発現変化が見られたことから、実生での胚軸の内生ジベレリン量の調節に、子葉が深く関与している可能性が示された。 また、モデル植物であるシロイヌナズナの花茎をマイクロナイフを用いて切断することにより、同様の組織癒合現象が生じることを見いだした。この花茎の組織癒合においても、葉や茎頂が必須であることが示され、本研究を通してホルモン類の組織癒合における関与が明らかになることが期待される。そこで、シロイヌナズナでゲノム情報および各種リソースが整備されていることを利用し、花茎切断後の癒合部における遺伝子発現をマイクロアレイ法を用いて網羅的に解析を行い、細胞分裂や細胞壁多糖代謝にかかわる多くの遺伝子の発現が大きく変動していることを明らかにした。さらに、注目する遺伝子については、リアルタイムPCR法による発現解析やレポーター遺伝子を用いた組織化学的解析を行い、より詳細な時期・部位特異的発現パターンを示した。また、一部の遺伝子については機能欠損体の形態学的解析を行い、実際に組織癒合に変化が生じていることを示唆した。これらの研究により、組織癒合過程の分子的理解が飛躍的に進んだとともに、今後、これらの中から注目される遺伝子の変異体・タグラインの形質調査やプロモーター::GUS形質転換体をより解析していくことで、これらの遺伝子の組織癒合における役割が解明されることが期待される。
|