DNAメチル化修飾は、ヒストンのメチル化・アセチル化・リン酸化修飾と同様、「エピジェネティックな情報」のひとつとして注目され、細胞の分化方向の決定づけやインプリンティング、X染色体の不活性化機構に関与している。また、DNAメチル化異常が、癌化や先天性疾患などの病気に関わることも明らかになってきた。しかしながら、DNAメチル化脱メチル化の制御機構やその意義については不明な点が多く残されている。 そこで、本研究では、ヒトインターロイキン2(IL-2)遺伝子プロモーターを用いて解析を行い、ヒトIL-2遺伝子プロモーターのDNAメチル化状態によってIL-2遺伝子の発現が制御されていることを詳細に解明した。その結果、Tリンパ球細胞でのIL-2遺伝子の発現には、DNAの脱メチル化と転写因子結合の2段階の過程が必要であることが明らかになった。さらに、In vivoにおける2段階の遺伝子発現過程の意義を明らかにするため、抗原刺激を受けていないnaive T細胞と抗原刺激を受けたことのあるresting T細胞との違いを検討した。その結果、両者にはDNAメチル化状態に違いがあり、その違いにより抗原刺激に対する反応性が異なることが明らかになった。つまり、resting T細胞では、すでにDNAは脱メチル化されていることから、転写因子の結合のみでIL-2遺伝子発現が誘導され、抗原刺激に対する反応性が早いことが判明した。これらの結果から、DNAメチル化状態がエピジェネティックな記憶として機能していることが示唆され、分化した細胞における脱メチル化の意義について新たな見解を見出すことができた。
|