申請者はHTLV-1のTリンパ腫瘍形成モデル系の確立を目指している。昨年度に引き続きマウスにHTLV-1を感染させ、感染成立後のマウスに放射線照射した系でのTリンパ腫が形成されるかを調べた。放射線照射7か月後から体重減少並びに脱毛症状等の現象は認められた。照射したHTLV-1非感染マウスでは胸腺でのみリンパ腫がみられたのに対し、照射後のHTLV-1感染マウスでは脾臓でのリンパ腫形成のみが多く見られたことから、末梢T細胞での分化・増殖の過程の中で、更にプロウイルス量及びクローナルな増殖について解析中である。 また上記実験に平行して、二次リンパ器官内での感染細胞のクローン性(プロウイルスの挿入部位が同一な細胞)とプロウイルス量について感染後の時間的推移(感染後短期2か月と長期18か月)での相関性を調べた。Reservoirとして考えられる脾臓並びにリンパ節では、総プロウイルス量の変動はあまり見られなかったものの1クローン当たりのプロウイルスコピー数が増大していたことが判明した。現在初期感染(1か月)で、どの細胞種がクローン性な増殖をしているのかを細胞をCD3・CD4・CD8にそれぞれ細胞選別して解析を行っている。 更にプロウイルスの近傍に組み込まれた遺伝子とHTLV-1との関連性(cis効果)について、細胞培養系においてATL由来の細胞株3種類でのHTLV-1挿入近傍遺伝子を同定した。現在、RNAiを用いた時におけるウイルス感染性の違い・細胞増殖性及びアポトーシス能を検討している。今後HTLV-1が挿入された近傍の遺伝子異常を調べ、癌化への必要な因子を見出そうとしている。 またATL発症患者のデータでも中心体数の増加が認められた。そこではHTLV-1Taxが中心体複製機構の破綻によるものであることを見出した。更に細胞性因子(p53やCDK2)との関わりについて現在調べている。
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