我々の眼が視標を追いかけて動いているとき、背景で静止している物体であってもその網膜上の像は動いている。しかしながら、我々は、網膜像の動きが目の動きにより受動的に生じたものであるか、実際に物体が空間内で動いていることによるものかを区別して知覚することができる。このメカニズムを理解するために、我々は眼球運動遂行中のサルに動き刺激を呈示し、頭頂葉MT野(middle temporal area)およびMST野(medial superior temporal area)から単一ニューロン活動を記録した。眼球運動課題には、固視、記録したニューロンの適刺激方向またはその反対方向への追跡眼球運動(20deg/s)を用いた。サルの前面に置いたスクリーンにランダムドットパターンを投影し、-20〜40deg/s(ニューロンの適刺激方向を正とする)の速度で動かすことにより、眼球運動遂行中のサルに動き刺激を与えた。MTニューロンおよびMSTニューロンの動き刺激への反応を解析することにより、眼球運動中に生じた網膜像の動きに対し、どのような反応を示すかを調べた。その結果、ほとんどのMTニューロンが網膜像の動きに応答するのに対し、MSTニューロンでは、網膜上では適刺激方向への動きがない条件でも応答する、または網膜像が適刺激方向に動いていても、スクリーン上で動いていない場合には応答しないものが多く存在することが明らかになった。すなわち、MSTニューロンはスクリーン上での動き刺激の速度に応答することが明らかとなった。この結果により、MSTニューロンは網膜座標上の速度をコードしているのではなく、空間内での速度をコードしていということが示唆された。
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