研究概要 |
本年度は、金融工学・数理ファイナンスに関する近年の研究成果を学び、統計手法としてロバスト法の適用の可能性と問題点を探ってきた。経済・経営の諸問題で用いられる回帰分析法については、回帰モデルの係数を推定する際に、事前におかれた仮定からのズレに対してどのような影響を受けるのかを、回帰推定量の漸近分散で評価したのであるが、その内部構造には多変量歪度、多変量尖度が関係していることを重回帰モデルにおいて示すことができた。また、近年の研究でよく取り上げられているbootstrap法を用いたシミュレーションについても、新たなモデルを想定して、仮定からのズレの影響を探ることもできた。特にWhite(1980)によって提案された検定統計量の小標本の影響に関する研究についておこなった。 そして、経済・経営の分野でも母集団分布の位置母数の推定には、平均値以外に、外れ値の影響を考慮した推定量として中央値(メディアン)が用いられているが、仮定した分布からのズレに対して平均値よりはロバストではあるが、事前にモデル分布を仮定しない、ノンパラメトリックな場合においては、信頼区間は有効ではなかった。そこで、Yohai and Zamar(2004)が新たに提案した信頼区間について、彼らが用いた、分布からのズレを表すcontamination近傍をさらに一般化した(c,γ)-contamination近傍上で、信頼区間を構成し、特性を考察するとともに、検定問題への適用も試みた。この成果はさらにTukey median(多変量の場合のメディアン)への拡張が考えられる。また、回帰推定量としてこれまでに取り扱ってきたGS-推定量、Depth推定量に関するmaximum biasの評価や実証研究も試みる。
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