我々は、無血清培養下での組織再生を目指し、接着ペプチドのRGDS、増殖因子のインスリン(INS)をそれぞれ単独で固定した温度応答性表面を作製し、これを用いて細胞接着・増殖挙動を亢進しうることを明らかにしている。本研究では、カルボキシル基を導入した温度応答性高分子のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)の超薄層修飾表面にRGDSとINSを共固定した表面を新規に調製し、この表面上での細胞接着・増殖の加速化を検討した。 血管内皮細胞(EC)を播種し経時的に接着・増殖挙動を解析した結果、RGDS固定量が多いほどECの初期接着を促進し、INS固定化は細胞増殖に強く作用した。表面へのINS固定化は、培地へのINS添加と比較してより少量のINSで高い増殖活性を示し、この効果はRGDSとの共固定により増強された。この結果は、固定化INSから誘起された連続的な刺激により細胞増殖能が亢進していることを示唆している。 ECを24時間培養後、培養温度を20℃に下げると、表面固定PIP舳n分子の水和に伴い表面が親水性化し、伸展細胞は表面から自発的に脱着した。経時的に観察した結果、RGDS固定量が多いほど脱着が遅延し、INS固定化は脱着にほとんど影響しなかった。ECをコンフルエントまで培養後、低温処理のみでシート状の単層組織として剥離でき、単一細胞と比較して短時間で回収できた。この結果から、表面の親水性化による接着性の低下に加え、細胞-細胞間結合を維持した組織が足場を失うことで、細胞の骨格タンパクの再構築に起因する組織自体の収縮が関与していると考えられた。 以上の結果、細胞接着・増殖を促進しつつ温度変化で細胞の接着/脱着を動的に制御し、培養細胞を単層組織として回収しうる温度応答性ナノバイオ表面が調製できた。本研究結果は、動物由来成分を不要とする新規培養法の確立に極めて重要な知見である。
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