性能設計では設計初期に目標・要求性能を設定し、その後の詳細設計によって、保有性能が目標・要求性能を満足するか、否かを確認する。しかし、現行の耐火設計では保有性能の定量化に際して、常温時設計と同等程度の精度を確保できていない等の問題がある。これらの問題に鑑み、本研究では、火災外力と構造体の損傷との関係を定量化するため、下記の検討を行った。 1.構造的損傷予測モデルの構築 「耐火性能は架構自体の構造性能に依存する」、と捉えるのが工学的に自然であり、部材単体を対象とした設計よりも本質的な設計が可能となる。ここでは保有性能の明確化を先行目標として、火災時応答解析ツールの構築・改良を行った。これは、構造的損傷予測モデルのプロトタイプであり、金属系構造を対象とした火災時耐力・変形を追跡できる。これに基づき、構造性能(耐震性能)と耐火性能の関係を明らかにするため、必要保有水平耐力と同値の耐力をもつ架構に対して解析を行った。その結果、中層・高層建築物の中高層階の火災では、十分に応力再配分がなされず、架構は部分崩壊に至り、高層建築物の低層階の火災では、架構は応力再配分により崩壊に至らない可能性があること等が明らかとなった。 2.火災外力を受ける部材の熱的性状 火災外力と構造体の損傷の関係を定量化する際には、構造、温度上昇抑制法、材料特性等を考慮して、加熱を受ける部材の熱的性状を明らかにする必要がある。ここでは、一定の火災外力を受ける部材に入射する正味の熱流束、温度上昇特性の定量化を目的とし、加熱強度、温度上昇抑制法の有無をパラメータとした加熱実験を行った。その結果、温度上昇抑制手法として散水設備を用いることにより、大幅に入射熱量を低減することは可能であるが、高強度の加熱を受ける場合には水温上昇・蒸発などに起因する不安定現象によって、部材が部分的に高温化する可能性があること等が明らかとなった。
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