ヒト11p15.5領域の刷り込みクラスター内に存在するLIT1遺伝子の発現動態解析、周辺遺伝子の発現制御機構および制御に関与する分子の同定を目指した。 当研究室において単離されたLIT1は、約80kbの長さで父方由来染色体特異的に転写され、non-coding RNAとして機能を持つ事が示唆されている。また、ヒト11番染色体を保持するハムスター由来細胞を用いた解析より、LIT1はクラスター内の遺伝子発現をシスに制御する刷り込みセンターとして重要な機能を持つことが示されている。近年、周辺遺伝子の発現制御にはLit1 RNAが必須であること、制御に伴い周辺領域のDNA methylation状態、Histone修飾状態が変化することが示されているが、Lit1 RNAが周辺遺伝子の発現をシスに制御する機構、制御に関わる因子の解明には到っていない。 まず、我々はRNAFISH法を用いてヒト正常細胞株におけるLIT1 RNAの詳細な核内発現動態の解析を行った。その結果、LIT1 RNAは90%以上の高頻度で核内に確認された。また、RNAIDNA FISH法を用いて種々のがん細胞株、BWS患者由来細胞株でLIT1 7RNAの発現異常が高頻度で生じている事を明らかにした。これらの結果により、LIT1 RNAが細胞周期を通して安定に核内に集積することで周辺遺伝子の制御を行う可能性が示唆された。 次に、LIT1 RNAが集積している詳細な領域を解析するためにChromatin fiberに対してRNA FISHを行い、クロマチン上に集積するLIT1 RNA分子の検出に成功した。また、ISH法とChIP法を組み合わせた新たな方法を確立し、LIT1転写領域外のLIT1 RNAにより発現制御を受ける遺伝子領域(KCNQ1DN、CDKN1C)にLIT1 RNAが集積する事を確認した。これらの結果により、LIT1 RNAが制御遺伝子領域のクロマチン上に集積することで、遺伝子の発現をシスに制御することが示された。 これまでにLIT1 RNA同様の制御機構を持つRNAとしてXisfがよく知られており、Aist RNAの発現制御に伴いDNAmethylation状態、Histone修飾状態、polycomb、BRCA1等の因子が関与することが明らかとなっている。我々が得た結果より、LIT1 RNAによる周辺遺伝子の制御に関しても同様な因子の関与が推測された。
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