琉球列島における植物の多様性形成に地史がはたした役割を明らかにすることを目的として、分子系統地理学的解析を行っている。これまでに琉球列島、日本本土、台湾から系統に地史の影響が反映されやすいと考えられる複数の分類群(サツマイナモリ類、サンショウソウ属、ヒメタムラソウ類、オキナワウラジロガシ、ソテツ、アリモリソウ、ヘツカリンドウ類)を採集した。 このうち1.サツマイナモリ類については、日本から台湾の試料について分子系統解析をほぼ終え、(1)サツマイナモリは遺伝的に、南琉球グループ、中琉球〜九州南部グループ、九州南部以北グループに分かれること、(2)トカラ海峡、ケラマ海裂といった地理的構造と系統樹の分岐パタンは必ずしも一致しないこと、(3)中琉球で派生したと考えられていた種内分類群は、古くに渡来し取り残された遺存的な群であり、全く独立の起源をもつこと、などが明らかとなった。サツマイナモリについて、花形態に基づく分類学的見直しに関する論文、および、中琉球固有種内分類群の系統的起源と新学名についての論文を取りまとめている。また、2.ヒメタムラソウ類については核DNAの解析から、基本変種と中琉球固有の種内分類群との間に大きな遺伝的分化は見られず、両分類群の系統的分岐は、地質年代的にさほど古くはないことが示唆された。これらの研究成果については、京都大学生態学研究センター公募研究会(与那、2004年11月)、Tropical Biodiversity Okinawa 2005(宜野湾市、2005年3月)、日本植物分類学会第4回大会(高知、2005年3月)にて発表を行った。 形態学的研究および遺伝的変異のスクリーニングにより、次に分子系統学的解析を行う分類群にヘツカリンドウ類を選定した。またこの過程で、琉球列島産ソテツの種子形態の変異性について論文にまとめた(発表予定)。
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