リチウムエノラートに過剰量のヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)を添加するとアルキル化反応の反応性および選択性が著しく向上することが知られている。本研究代表者らはこれまでに有機合成化学史上の謎であった、この「HMPAの効果」を分子機構的に解明すべく、シクロペンタノンリチウムエノラートを基本エノラートとして溶液構造と速度論的解析から「二量体の関与」という従来の常識を覆す画期的結論を導きだした。一方、本研究を遂行している鈴木正昭教授研究室では、これまでにプロスタサイクリン(PGI_2)の新規安定人口類縁体15R-TICおよび15-deoxy-TICの脳機能改善効果が示された。一方、^<11>C短寿命放射性核種を導入したTIC誘導体が合成され、陽電子放射断層画像撮影(PET)法を用いた脳科学研究が展開されている。今後、脳虚血後遺症やアルツハイマー病治療薬開発に向けた創薬研究の展開が予定されている。現地点では、これらTIC類はイソカルバサイクリンを経由するかCoreyラクトンを出発原料とした多段階合成により供給されるが、本研究課題の遂行にはTIC類の大量供給法の確立が不可欠である。そこで、これまでのエノラート化学の研究から得られた新知見を適用して、TIC類の大量供給の合成戦略の要となる「3成分連結プロスタグランジン(PG)合成法」の高効率合成法の確立をめざして研究を行った。その結果、選択的反応の実現において添加剤として不可欠であった毒性の高いHMPAを排除し、さらに過剰量必要であった成分を1当量に抑えた反応系を設計し、短時間、高収率でPG基本炭素骨格を構築することに成功した。今後、本研究において確立した手法に基づきTIC類縁体を大量供給し、血液脳関門透過特性を示すPG誘導体の設計・合成を行う予定である。
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