研究概要 |
希土類充填スクッテルダイトRT_4X_<12>(R:希土類、T:Fe, Ru, Os)は、多彩な物性を示す。これまで主に、三価のRイオンの持つ4f電子が物性に及ぼす効果が研究されてきたが、Tの持つd電子の寄与は不明である。そこで本研究では、非磁性で二価のアルカリ土類金属Aを充填したAT_4Sb_<12>(A=Ca, Sr, Ba)の多結晶試料を作製し、磁性、伝導、熱物性の測定により、Feの3d、Ruの4d、Osの5d電子の寄与を比較した。 (1)AFe_4Sb_<12>(A=Ca, Sr, Ba) 上記の諸物性の測定と、^<123>Sb-NQR実験により、AFe_4Sb_<12>が強磁性に近い金属であることが分かった。また、約50K以下で10^<-3>μ_B/Fe程度の小さな残留磁化を観測した。この原因を微視的に調べるため、ミュオンスピン緩和実験を行った結果、試料中の体積分率にして高々20%のみが弱い強磁性状態にあることが分かった。不均一な弱強磁性の原因として、結晶格子の不均一歪みによる、バンド構造の変化を提案した。 (2)ARu_4Sb_<12>(A=Sr, Ba) これらのRu化合物は反磁性を示すことから、Ruの4dバンドは磁気モーメントを持たないことが分かった。 (3)AOs_4Sb_<12>(A=Sr, Ba) 比熱測定から求めた電子比熱係数の比較によって、Osの5dバンドは、AFe_4Sb_<12>のFe-3dバンドと、ARu_4Sb_<12>のRu-4dバンドとの中間のエネルギーを持つことが分かった。一方、熱伝導率は、T=Fe, Ruの場合に観測された極大を示さない。これは、Sbの作る20面体中にあるAイオンが、複数のポテンシャル極小間をトンネリングし、音響フォノンと強く相互作用していることを示唆する。 (4)AFe_<4-x>Co_xSb_<12>(A=Sr, Ba) AFe_4Sb_<12>のFeサイトを、3d電子の1個多いCoで置換し、磁性と熱電物性の変化を調べた。xの増加に従いフェルミ準位での状態密度が減少し、x=0の強磁性に近い状態から、x【greater than or equal】2.5では反磁性へ変化した。また、x【greater than or equal】2.5では、充填スクッテルダイトではあまり報告例のない、n型伝導を示した。
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