研究概要 |
紀元前3-2千年紀のインダス・湾岸地域における文化の交流と変化に関する研究の延長として,本調査団はより具体的にカタル・バハレーンにおける発掘調査を実施してきたが,本年度は昨年来集中的に発掘調査を行なっている同国北部のアイン・ウンムッスジュール遺跡の調査を続行し,同遺跡に紀元前2000年ころのものと思われる階段状井戸遺構2基を中心とした重要な遺物・遺構を明らかにした。その成果はバハレーン内外で大きな注目をあび,日本でも数紙の報導があった。 おそらくこれらの遺構は,同遺跡にかつて存在していたと思われる大構築物の東側に位置するさらに大きな建築複合の一部をなすものと思われ,かつこれらの井戸遺構は,その豪壮でつくりのよいこと,また同遺構に共伴する石製奉献台や陶製ランプ,クロライト製石製容器などの存在からみて,単に実用的な設備というよりも,何らかの宗教的・儀礼的な性格をもつものではないかと考えられる。また,それよりは少々時代が降る可能性があるが,井戸状遺構の南方に広がるプラスター貼りの床や炉趾も,これまで同国の他遺跡では類例のなかったものである。 われわれの本来の目的である「文化の交流」すなわち当時の交易活動を跡づけるものである諸種の遺物を得たことも成果であった。前述のクロライト製石製容器は,イランからオマーンにかけて特徴的な分布範囲と時代差をみせる良質の検討資料であり,また1点ではあるが出土した紅玉髓のビーズは,インダス文明の影響化にあるグジャラート地方からオマーンにかけて特徴的なものである。総じて,本年の成果の延長にある次年度の成果が大きく期待されるところである。
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