今年度の調査は、カクマ地区の調査拠点に隣接する地域に大規模な難民キャンプが開設されて3年目にはいるという時点でなされたものであったが、当初、それをきっかけにトゥルカナの生活に急激な変化がもたらされつつあるかのようにみえたものは、ある意味で一時的な現象であり、現在そのような混乱は沈静化している。しかし一方で、このような「新しい」状況への具体的な対応の積み重ねが、一つ一つの対応というレベルを越えたマクロな「変化」を、彼らの生活にもたらしている。そのような変化として重要なものは、1)牧畜という伝統的な生業活動以外の領域の比重の増大、とくに外部から流入する現金や物資への依存の度合いが目に見えて強まっていること、2)トゥルカナの内部で完結している彼らのものの考え方が通用しなくなり、他民族との共存を前提とする「近代的」世界観に譲歩せざるを得なくなってきたこと、の2点が上げられる。 1)については、食料援助への依存という別の要因も加わって、近年の変化としてとくに目立ったものである。難民キャンプとの関係では、キャンプでの雇用によってもたらされる現金に強く執着し、難民との間で可能な物資の交換のチャンネルをて手あたりしだい試みてきている。それは、多くのトゥルカナのキャンプ周辺への移住を促すことによって、伝統的牧畜のあり様にも影響を及ぼしつつある。2)の問題は、その影響を直接観察しにくい事柄であるが、教育の普及という強力な支えもあって、今後の変化を方向づける重要なものである。キャンプ開設以来、難民との間でさまざまな紛争が持ち上がったが、その調停においてトゥルカナ的直接交渉の試みはまったく空回りに終り、彼らの影響力が及び得ない公的な判断に単純に飲み込まれることとなった。今後ともこのような事例の集積をはかりたい。
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