研究課題
各研究分担者は各自の分担地域での現地調査を実施すると同時に、ソウルでは行政関係を含む刊行資料を蒐集して、その整理と分析を行ってきた。即ち、全羅南道と慶尚南道の島嶼地方と内陸山間部での調査では、70年代以後の農村の過疎化と高齢化、住生活を中心とする生活文化の変化、農業の停滞と大都市に転出した親族への依存、その一方での民俗文化の衰退と部分的な再認識と復活の動き、とりわけ「セマウル運動」とキリスト教の隆盛を背景とした巫俗に対する蔑視と文化財としての保護助成をめぐる両義的な評価、巫系の遊芸人によるパンソリやタシレギなどの興業の復活、祖先に対する追慕事業と石碑建立ブーム、「霊登祭」における観光開発と結びついた伝説の祭儀化、村の祭りの復活と「郷土文化祭」の育成、三別抄の乱にまつわる慰霊祭儀のイヴェント化、蒙古来襲に因む長崎県鷹島町との交流や鹿児島県の民間団体との交流等が、いずれも国家の周縁部にみられるアイデンティティーをめぐる動きとして取り上げられた。これら調査の結果、予期した以上に各地方毎に民俗文化と結びついた地域振興の動きが広がっており、住民の関心も高いことが判明した。また文化部と文化広報部(処)による伝統文化の保存行政も大きな転機にあることが実感できた。一方、日本の離島における周縁性と再活性化の実態を調査した韓国側分担者は、有能な研究補助者の補助を得て、長崎県の五島(福江島、中通島)、北松浦郡の小値賀島と鷹島、平戸における過疎化と農業、離島の交通と福祉、民俗文化の現状と保存活動、地域の開発と活性化の取組みなど、聞き取り調査と資料蒐集とによって広範な問題の概況を掴むと同時に、韓国の離島との比較を踏まえた今後の研究展望を得ることができた。どちらも現地調査によるデータの整理と分析を通して次年度の調査の計画を策定中である。
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