研究課題
研究分担者は前年度に引き続き順調に各分担地域での現地調査と平行して、ソウルや道郡の所在地では行政関係を含む文献資料を蒐集して、その整理と分析をおこなってきた。すなわち、過疎化と高齢化が進んでいる全羅南道と慶尚南道の島嶼地方や内陸山間部での調査では、民俗文化の衰退が深刻な中でその再認識と復活の動きが注目され、南原郡における民俗儀礼の祝祭化をめぐる動向と、珍島郡における「霊登祭」の祝祭化による観光開発の過程は、一地方の民俗的な信仰や行事が、行政の肝入りでマスコミを媒体として「郷土文化祭」に変容した事例として実態調査がおこなわれた。また巫系の遊芸者による商品販売と結びついた伝統芸能興業の復活、崇祖巡礼や追慕事業、洞祭の復活、戦乱にまつわる歴史の再解釈と慰霊祭儀のイヴェント化、蒙古来襲に因む長崎県鷹島町との交流などは、いずれも国家の周縁部における既存のナショナリズムの枠組とは別の独自のアイデンティティー追求の動きとして注目され、前年度に続いて集約的な現地調査が実施された。文化財行政については、民俗行事の保護育成策のもとで、これに深く関与してきた専門委員(民俗学者)と一部の芸能伝承者とが利権とも結びついた人脈を形成しており、これが民俗文化の健全な継承や発展にとって新たな問題となっていることも明らかとなり、伝統文化の保護行政も大きな転機にあることをますます実感した。一方、日本の離島における周縁性と再活性化の実態調査を担当した韓国側メンバーは、長崎県の外海町、五島の福江島、小値賀島と鷹島における地域文化活性化の運動から、一部は熊本の天草における有機農業や移動漁業に活路を求める漁民にも対象を広げている。いずれの分担者も、各自の現地調査によるデータの整理と分析を通して次年度の調査計画を策定中である。