研究課題
これまでに理論的な研究がほとんど皆無であるス-クの伝統経済の分析を発展させるためには、(1)原典に依拠する理論の開発と、(2)現地調査の綿密な組合せが不可欠である。これまでの研究成果の決定的な欠陥は、当該地域の独自な経済システムに関する充分な認識に基づく(1)の部分が完全に欠落していたことによるところが大きい。この点に関しては本年度研究代表者が刊行したM.バ-キルッ=サドルの『イスラーム経済論』、『イスラーム哲学』の翻訳と長い解題は大きな貢献と見なされうるであろう。いずれも500頁を越える大著であり、全く未開拓の分野を取り扱った両著作の出版が学会に与えるインパクトは、極めて大きなものがあると思われる。同じ著者による『無利子銀行論』、『イスラーム商業論』の翻訳、解題の作成も進行中である。現地調査に関しては、本年度はシリアのアレッポの大ス-クの一角にある小さなハーンを選び、そこの商店、商人、アトリエの職人活動に関して、アラビア語による直接の徹底的な聞き取り調査を行った。この小単位の徹底的な調査により、ス-ク全体の生産活動、商取引の基本的な形態、流通のネットワークの特殊性が明らかにされた。本来混乱そのもので、なんらの規則性もないと研究者の間で有名なス-クの活動は、在来の経済分析手法に乗らぬだけで、イスラーム経済に固有の分析法を用いればその独自の構造が明らかになるであろう。この構造の独自性に関しては、今後のよりマクロ的なアプローチによる大ス-ク、郊外の手工業地帯の調査を基礎に、デュルケームの〈分業論〉の批判的な検討等を通じてそのシステム性が明かにされることであろう。なおこれまでの研究成果は、本年9月現地アレッポで行われる大型セミナーで組織的に発表される予定である。
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