研究概要 |
平成5年度は予定通り8月にパラワン島において調査を遂行し,山林とマングローヴを中心に調査した結果,カイガラムシ上科148点約100種,アザミウマ目約100チューブ約60種,ハマキガ科成虫約130頭約40種,潜葉性小蛾類は187点の潜葉材料から羽化した成虫約450頭約100種を得,現在はソーティングを終了し,一部については研究も完了して平成7年度中に印刷発表の予定である.いずれの昆虫群もパラワン島においては従来まったくまたは殆ど調査例ががなく,学術上極めて貴重な資料である.カイガラムシ上科のうち最大科のシロカイガラムシ科については約40属92種が確認され,10属以上は未記載属である.新属のなかにはこの科における形態進化の一趨勢の過程,あるいは極めて新奇な方向への進化を暗示する属があり,この科の進化・分類の研究に重要な意味をもつものである.アザミウマ目昆虫については2亜目3科30属以上が確認されたが,種については広域分布をなすものがかなりの割合でみられる.ハマキガ科では未記載種の数は多くはないが,得られた種の大部分はフィリピンでは従来記録のないものである.潜葉性小蛾類のうち未記載種は約半数あり,他の多くはマレイシアとくにサバ-と共通である. 平成6年度には調査地として,8月前半はス-ビック原生林,後半は隣接するバターン半島を予定していた.しかし,フィリピン到着当時,台風による出水によりス-ビック・バターン半島方面の幹線道路がピナツボ火山泥流で遮断されたため,前半の予定をミンドロ島に変更した.後半については,道路が開通したので予定通りバターン半島において調査した.ミンドロ島においてはハルコン,バターン半島においてはナティブの両山が中腹に自然林を維持しているが,道路不備のため接近が困難であった.従って両地域とも断片的な自然植生を調査したに過ぎない.以上の経緯にもかかわらず前年度にほぼ匹敵する成果を得た.カイガラムシ上科は点数で前年度同様148に達したが,種数では約80あまり,アザミウマ目は63チューブ約40種,ハマキガ科は約150頭の成虫を得たものの種数は約20,潜葉性小蛾類は前年度と同じく187の潜葉材料を採取し,これより約1000頭約80種の成虫標本を得た.カイガラムシ上科のうちコレクションの大部分を占めるシロカイガラムシ科については約72種を認めた.これらは30以上の属に分類されるが,そのうち10以上は新属である.アザミウマ目については前年度パラワンと同様の傾向が認められた.ハマキガ科については種数は少ないものの,大部分は被寄生葉を採集して幼虫から飼育羽化させたものであり,その学術上の重要性は大きい.潜葉性小蛾類のうちホソガ科については,平成4年度別個計画と前年度で合計98種をフィリピンから確認したが,今年度は,これに50種以上を新たに加えた. 得られた標本はすべて日本に持ちかえられ,しかるべき処理を受け,前年度のものとあわせて現在研究が進行している.研究が完了して印刷発表されたものから,研究に使用された標本の半分をフィリピン大学自然史博物館に返還することに合意されており,前年度の一部についてはすでに返還を始めている. フィリピンの大・中型動植物は多くの群について固有率が高いとされてきた.本計画によっても,とくにシロカイガラムシ科については属と種のレベルで,また潜葉性小蛾類では種のレベルで,かなりの未記載形態がある.今回の計画がごく小規模にすぎず,調査期間・地域とも限定されていたにも拘わらず,そのような結果が得られていることは,微小節足動物においてもフィリピンの生物相が特色あるものであり,生物地理学・分類学・進化学等の分野で研究の価値が高いことを示している.一方,フィリピンにおける自然破壊は近年森林伐採と人口増加により急速に進行しており,今回の計画では,バターン半島はもとより,かつて原始の島と称されたパラワン島においても,大規模な自然林は急峻な山腹に残っていて用意には接近でなかった.したがって,多くの生物群については国際的な協力の下組織的な調査が必要であろうし,さらにその調査に基づいた効果的な自然・環境・生物保全の対策を緊急講ずることがこの国においては特に重要であることを,本計画の結論としたい.
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